【短編小説『探し物』】

小説

都会で眺める星が好きだ。
子供の頃は空一杯に堂々としていた星も、ここじゃ申し訳なさそうに光っている。だけど、ちっぽけだけど、確かに光っている。

「おやすみなさい」
こんなにも痛い。こんなにも辛い。こんなにも苦しい。
時計の針は回るのをやめない。
楽しいことだってある。嬉しいことだってある。
けれども、寝床についた時に感じるのは今日への後悔と明日への恐怖。
いつまで続くのか。このまま終わるのか。

「あれ、私ってなんで今ここにいるんだっけ」

翌日、日常のありとあらゆる場面を探した。でも、どこにも見つからない。

「あ、私の人生って意味、ないんだ」

あらかたの業務を終え、帰路につく。いつも通りコンビニで買った夕食を片手に歩く。
意味なんかなかった。あるのは大量の仕事とプレッシャー、募る疲労だけ。

「もう、やめよっか」

ふと気がつくと、家の近くの公園のベンチに座ってた。足元にはせっせこと獲物を運ぶアリが列をつくっている。
おもむろに携帯を取り出し、唯一の親友に電話をかける。

「もしもし?どうしたん?こんな時間に」

「あのね、もうやめようとおもって」

「やめる?やめるって何を?」

「何をかな?なるべく全部がいいかも」

「・・・そっか、やめちゃうのか。やめる理由だけ、聞いてもいい?」

「見つからなかったの、なんにも」

「そうなんだね・・・いまどこ?」

「いつもの公園」

「わかった」

そう言い残して電話は切れた。
今晩は夕食も入りそうにない。ベンチに腰掛けたまま、ひたすらアリたちを眺める。彼らは何のために働いているのだろう。何のためにそんなに頑張れるのだろう。どこで見つけたんだろう。私にはわからなかった。

どれぐらい経ったのだろうか。足元のアリも気づけばいなくなっていた。

「見つけた!」

静けさの深まった公園には似合わない明るく大きな声が響き渡る。そこには親友が立っていた。

「見つけたよ!」

やたら元気な彼女に戸惑う私

「どうして来たの?」

「だから、見つけにきてあげたの」

彼女が何を言っているのか私にはよくわからなかった。

「やめちゃうんでしょ」

「ああ・・うん、やめようって、思ってる。」

「だからその前にちょっと話したくてさ」

なんとなく、彼女が来てくれた理由がわかった気がする。

「見て!あの星、めっちゃ光ってる!」

「いや、あれは飛行機でしょ」

「えーそうなの、でもやっと上向いてくれた!」

「え、」

確かに。言われてみればここ最近は夜空を眺めるなんて、久しくしてなかった気がする。

「私は好きだよ、二人で眺める星」

「私も好きだよ」

「じゃあさ、明日もこの時間、二人で見ようよ。星」

「え、ああ、うん。いいけど⋯」

戸惑う私。彼女が何を言いに来たのかがまたわからなくなってしまった。

「みつからなかったんでしょ?なんにも」

「ああ、うん」

「でもそれ、私なら見つけられるよ。だって私の中にはあるから」

「どういうこと?」

「私はまた明日、二人で星が見たい。これってさ、今日だけは生きる理由になんない?」

言われてみればそうだ。今日で終わらせようってさっきまで思ってたのに、気づいたら明日また二人で星を眺めたいって思ってた自分がいた。

「そうやってさ、今日の大切な、けどとっても小さな、一瞬を集めていくの。そしたらさ、いつかは見つかるんじゃないかな!」

「でも、もう、なんにもしたくないの・・なんにもできないの・・・」

「今はそう!だから、一度おやすみしよ。疲れてるんだよ。疲れちゃったらね、見えるものも見えなくなっちゃうの。それこそ、都会の星みたいにさ」

都会の星だって淡く光ってるんじゃない。本当は強く光ってるんだ。ここでは見えないだけ。そう思えると、彼らがさっきより眩しく見えた気がした。

「また明日、二人で見たい。」

「よかった!じゃあ、また明日ね!」

そう言って彼女は帰っていった。
いつからか見えなくなっていた。見いだせなくなっていた。本当はそこにずっと光っていたのに。でもそんな自分も自分だ。見えなくなったら少しおやすみしよう。
ご飯が美味しい。まだ寝ていたい。誰かと話したい。彼女と星を眺めたい。

探し物は今日にあった。

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